医療事故の法律相談

医療事故の法律相談

最新青林法律相談

  • 編・著者山口斉昭・峯川浩子・越後純子・石井麦生編著
  • 判型A5判
  • ページ数360頁
  • 税込価格4,950円(本体価格:4,500円)
  • 発行年月2019年12月
  • ISBN978-4-417-01782-0
  • 在庫

    有り

■解説

●被害の救済と医療の安全の確保に向けて法的紛争にどう対応したらよいのか?
 最先端で活躍する実務家,研究者が,紛争解決のための実務と判例理論を具体
 的に平易に解説!
●実務においては医療安全や事故調査,再発防止等を意識し,医療と法の相互理
 解へと向かうような取組みが訴訟や紛争解決等の現場にも生かされつつあるこ
 と,判例においては単に患者の傷病を治療するだけでなくその意向や具体的な
 状況に配慮する医療者を意識した理論,結果にかかわらず,その過程において
 ,当時の医療の水準を基に最善を尽くすべき医療者を意識した理論が見られる
 ようになっていること――このように状況が大きく変化しつつある医療事故の
 法律問題に関し,実務上及び理論上の重要な論点を具体的な問題の解決に役立
 つようにわかりやすく解説!


はしがき
 医療事故をめぐる法的な状況は,この20年で大きく変化しました。
すなわち,かつて,この分野は「医療過誤法」とされ,医師患者間の問題とし
て,「被害者」である患者が,医師の過失をいかに追及して,被害の救済を受け
るかが中心的な問題とされてきました。しかし,1999年に,二つの大きな医療
事故(横浜市立大学病院患者取り違え事件及び都立広尾病院消毒剤点滴事件)
が生じ,いずれも著名な病院における,単純なミスによる重大事故として,社
会の大きな注目を集めたことにより,医療事故の防止についての社会的関心が
高まりました。これを受け,被害の救済とともに医療安全に関する議論が盛ん
になり,その後,2006年の県立大野病院医師逮捕事件やそれをめぐる激しい議
論などをも経て,2014年に医療事故調査制度が成立,2015年より施行されてい
ます。
 このような流れの中で,医療事故に関する実務及び判例理論にも,大きな変
化が生じています。具体的には,実務上も,医療安全や事故調査,再発防止等
を意識し,医療と法の相互理解へと向かうような取り組みが裁判所等において
もなされ,それが訴訟や紛争解決等の現場にも生かされつつあります。また,
判例においても,単に患者の傷病を治療するだけでなく,その意向や具体的な
状況に配慮する医療者を意識した理論,結果にかかわらず,その過程におい
て,当時の医療の水準を基に最善を尽くすべき医療者を意識した理論が見られ
るようになっています。そして,これらの実務と理論は,従来,そのように捉
えられがちであった医療側と患者側の「対立構造」を克服し,両者が協力して
「よき医療」を目指す方向に向かっているといえるでしょう。医療事故の法分
野での,近時におけるこのような志向は,他の法分野とは異なる一つの特徴で
あり,このような特性や,法分野のアイデンティティを意識しないまま,無自
覚な対立的構造を持ち込むと,実際の紛争や問題解決においても,理解が得ら
れず,状況を困難にすることが多いと思われます。
 本書は,このように大きく変化しつつある医療事故の法律問題に関し,実務
上及び理論上の重要な論点をQ&Aの方式を取りつつ,わかりやすく解説した
ものです。執筆者はいずれも医療事故の法律問題の最先端で活躍する実務家及
び研究者であり,医療事故に関する状況の大きな変化の中で,上記のような志
向やトレンドを実際に感じ,作り出してきた第一線のメンバーです。このた
め,本書は医療事故における具体的な問題の解決に役立つとともに,上記のよ
うな流れや志向の理解にも寄与すると思われます。本書を手に取り,理解を深
めた読者が,上記のような志向にさらに貢献することによって,本書がよりよ
き医療に少しでも寄与することを願ってやみません。
 なお,本書に関しては,もっぱら編者の責めにより,企画から完成に至るま
で多くの時間を費やすこととなり,この間,執筆者の方々,また,青林書院編
集部の長島晴美氏には,大変なご面倒とご苦労をおかけいたしました。この場
を借りて,深くお詫び申し上げます。また,それにもかかわらず,本書の完成
まで,辛抱強くご協力いただきましたことに,心よりの感謝を申し上げます。
令和元年12月
編著者一同


編著者
山口 斉昭:早稲田大学法学学術院教授
峯川 浩子:常葉大学法学部准教授
越後 純子:国家公務員共済組合連合会虎の門病院医療の質・
   安全部医療安全対策室室長・部長,医師,弁護士
石井 麦生:弁護士(すずかけ法律事務所)

執筆者
(執筆順)
山口 斉昭
越後 純子
北野 文将:名古屋大学医学部附属病院患者安全推進部病院講師,
弁護士(大津町法律事務所)
峯川 浩子
中村伸理子:福岡大学病院医療安全管理部講師,弁護士,医学博士
山川 一陽:日本大学名誉教授,弁護士(麻布国際法律事務所)
水沼 直樹:弁護士(文京あさなぎ法律事務所)
星野 俊之:弁護士(矢作・和田・星野法律事務所)
笹川麻利恵:弁護士(愛宕国際法律事務所)
石井 麦生
川見 未華:弁護士(樫の木総合法律事務所)
濱野 泰嘉:弁護士(TOKYO 大樹法律事務所)
武田 志穂:弁護士(城北法律事務所)

■書籍内容

第 1章 医療事故理論の概目要
Q 1医療事故の概念
  医療事故の定義について教えてください。医療事故以外の医療過誤,医療
  被害,医療紛争,インシデント,アクシデント,有害事象等の用語があり
  ますが,それらはどのように使われているのでしょうか。それらと医療機
  関,医療従事者の責任はどのような関係になっているでしょうか。
Q 2医師患者関係・医師・医療機関の義務と責任
  医師,医療機関は患者に対してどのような義務を負っているのでしょうか。
  医師の負う義務と医療機関が負う義務はどう違うのでしょうか。また,医師,
  医療従事者,医療機関の義務及び責任にはどのような種類のものがあり,ど
  のような関係にあるのでしょうか。
Q 3医療事故・医療訴訟の議論の現状
  医療事故に関する議論はこれまでどのように展開し,現在,どのような議論
  がなされているのでしょうか。最近成立した医療事故調査制度は,どのよう
  な背景で生じ,医療訴訟との関係はどのようになっているのでしょうか。
Q 4患者の権利法・医療基本法に関する議論
  医療基本法成立へ向けての議論があると聞きますが,どのような背景に基づ
  くのでしょうか。医療基本法の議論と,患者の権利,医療従事者の権利義務,
  補償制度や医療の質の確保の議論との関係はどのようになっているのでしょ
  うか。

第 2章 医療者の責任の概目要 及び 判次例理論
第1 節 概  要
Q 5医療者の責任の要件・特徴及び医療事故判例理論の概要
  医療従事者が損害賠償責任を負う要件はどのようなものでしょうか。他の事
  案と比較した場合の特徴としてはどのようなものがあるでしょうか。また,
  これまでの医療事故判例理論はどのように推移してきたのでしょうか。
第2 節 注意義務・過失・医療水準・ガイドライン
Q 6判例上問題となる医療者の注意義務の種類
  判例において問題となる注意義務にはどのようなものがあるでしょうか。
  また,その義務は誰が負い,その義務違反の責任は誰が負うのでしょうか。
Q 7医療水準について
  判例において医療従事者の注意義務の基準は医療水準とされているそうです
  が,医療水準とはどのようなものでしょうか。医療水準と医師の注意義務と
  の関係はどのようになっているでしょうか。
Q 8ガイドラインと医師の注意義務
  医師・医療機関の注意義務と診療ガイドラインはどのような関係にあるでし
  ょうか。診療ガイドラインの不遵守は医師の過失となるのでしょうか。
第3 節 因果関係論から法益論へ
Q 9因果関係と「高度の蓋然性」
  医療行為が行われた後に,患者の容態が急変するなどして死亡や後遺症など
  の悪い結果が生じたとしても,医学的には,医療行為以外にも結果を生じさ
  せた様々な原因が考えられるはずであり,医師の行為によって患者に悪い結
  果が生じたとはいいきれないことが多いと思われます。そのような中で,
  裁判所はどのような判断を行い,どのような理屈により医師に責任を負わせ
  ることとしているのでしょうか。
Q 10結果との間に因果関係が認められない場合「相当程度の可能性」
  急性心筋梗塞,急性脳梗塞など,急性の疾患に対して適切な治療が行われず,
  死亡した,又は後遺症を負ったが,適切な治療が行われていたとしても死亡
  や後遺症を避けられたかどうかわからない場合,適切な治療を行わなかった
  医師や医療機関の責任は認められるのでしょうか。もし認められるとするの
  なら,判例はどのような要件の下でそれを認めているのでしょうか。
Q 11判例の認める被侵害法益について
 近時,自己決定,インフォームドコンセントの侵害等による損害賠償が裁判
 において認められることが多いと感じますが,このような判例は,いつ頃か
 ら,どのような理屈で認められるようになったのでしょうか。そのほかにも,
 治療機会の喪失,延命機会の喪失,期待権等が問題とされているようですが,
 このような権利や利益は,医療事故訴訟における判例理論においてどの程度
 まで認められ,どのような役割を果たしているのでしょうか。

第 3章 医療事故の各場面目における次法律相談
第1 節 診断に関して
Q 12診断の誤り,遅延の場合の責任
 診断の誤りや遅延のために適時の治療機会を逸した場合の責任は,どのよう
 なものですか。また,結果との因果関係や損害についてはどのように判断さ
 れますか。
第2 節 医原病等の発症に関して
Q 13医療行為によって疾患,症状が増悪した場合の責任
 医療行為や医療機関を原因として発生する疾病・傷害にどのようなものがあ
 りますか。原因が医療側にある場合は,必ず,医師や医療機関の責任が問わ
 れることになりますか。医療機関の責任が認められない場合の救済制度はど
 のようなものがありますか。
第3 節 治療に関して
Q 14イリスク治療,先進医療,未確立,実験的治療について
 リスクのある治療法(ハイリスク治療,先進医療,未確立・未経験・実験的
 治療)により重大な結果が生じた場合,医療者はどのような場合に責任を問
 われますか。患者の病態,素因によってその責任の範囲は異なってきますか。
Q 15治  験
 治験に参加していたところ健康被害が生じました。誰に健康被害の救済を求
 めればよいでしょうか。医療機関や製薬会社が救済をしてくれない場合は訴
 訟を行うことができるのでしょうか。また,どのような救済が得られるでし
 ょうか。
Q 16治療方法の選択と医師の裁量
 医師が選択した治療方法(療法)が奏功しなかったところ,患者や遺族がそ
 の後得た情報によって,積極的治療を行わず保存的療法によるべきだった,
 あるいは別の治療法が選択されていれば治癒したはずであると主張する場合,
 訴訟においてはどのような判断がなされますか。
Q 17転医義務
 腹痛・吐気があって娘が開業医で治療を受けていたのですが,その後転送さ
 れた病院で原因不明の急性脳症と診断されました。治療を受けたものの既に
 治療の効果を得られる時期を逸していて後遺障害が残りました。開業医の責
 任を追及したいと思うのですが,訴訟ではどのような場合に転医義務違反が
 あったと判断されますか。また,満床等の理由から他の医療機関に移すこと
 ができなかった場合はどうなりますか。
Q 18 ■患者の自己決定権
 担当の患者の疾病につき安全性・有効性が確立した治療法は1つしかなく,
 それを実施しない場合は生命の存続が危ぶまれます。しかし,患者は自分が
 望む生活の質(Quality of Life:QOL)が望めなくなるとして治療を拒否し
 ています。救命のために患者に黙ってその治療を実施しようかとも考えてい
 るのですが,治療が功を奏した場合であっても損害賠償責任を負うことにな
 るでしょうか。
第4 節 療養,病院管理について
Q 19転倒・転落事故
 睡眠導入剤を投与された後に歩行していた患者が転倒して怪我をしました。
 患者の家族は,そのような事故が起こらないように患者を身体拘束しておく
 べきだったというのですが,拘束するような容態ではありませんでした。病
 院に責任はありますか。これがリハビリ中に生じた事故の場合はどうでしょ
 うか。
Q 20モニターの監視義務
 呼吸状態が不安定な患者について,万が一の場合に備えて監視体勢を強化し
 ,直ちに気管内挿管等救急措置をとることができるような体制をとっていた
 のですが,夜間で看護師が2名しかおらず,またナースステーションを不在
 にしていたため,患者の異常を知らせる医用テレメータ(患者監視モニター
 )のアラームに気づきませんでした。気づかなかった看護師に過失はありま
 すか。看護管理者や病院の責任はどうでしょうか。
Q 21誤嚥事故
 高齢の母(94歳)は認知症で,嚥下障害があり,誤嚥性肺炎を何度も繰り返
 しています。看護師や介護士等のスタッフが注意深く食事介助をすれば,誤
 嚥が防げると思うのですが,裁判ではどのように判断されていますか。また,
 食事を中止し,胃ろうを造設すれば誤嚥性肺炎が防げると思うのですが,医
 師は医学的適応がないといって造設してくれません。家族の意見を聞き入れ
 てくれない医師に責任はないのでしょうか。
Q 22褥瘡の予防・処置
 入院中の母は寝たきりのためか褥瘡ができ悪化しています。体位変換の間隔
 等に問題があるのではないかと思い医療機関の責任を追及したいのですが,
 看護師の過失を問題とすればよいでしょうか。どのような場合に過失が認め
 られますか。日中,家族が患者に付き添っており,患者ケアにかかわってい
 る場合はどうでしょうか。
第5 節 説明について
Q 23同意や自己決定のための説明とその内容
 ⑴手術,その他の侵襲の大きな治療,検査について,裁判所はどのような
  説明を求めていますか。
 ⑵発症した病気に対する通常の治療と異なる治療,医学的に未確立の治療
  法(先進治療等),予防的治療(未破裂脳動脈瘤等),美容整形(豊胸
  術等),不妊治療等について,特別の説明義務が課されますか。
 ⑶医師は入院加療を勧めたにもかかわらず,患者が拒否し帰宅した結果,
  患者は死亡しました。医師は責任を問われますか。
⑷医師が処方した薬で重篤な副作用が発生しました。その副作用について
  事前に説明をされていませんが,非常にまれであるということでした。
  そのような場合に説明義務違反となりますか。
Q 24顚末報告義務・死因究明義務
⑴検査や治療を目的とした事前説明ではなく,既に診療が終了した場合で
  も医師に説明を求めることはできますか。
⑵患者が死亡した場合に,死因の解明に関して,医師が負う義務はどのよ
  うなものですか。
Q 25患者を帰宅させる際の説明
 医師は,診察後帰宅させる際にどのような義務を負っていますか。帰宅後,
 病状が悪化した場合に医師が責任を問われるのはどのような場合ですか。
Q 26医師が行った説明によって生じた損害
 説明義務違反に関する裁判では多くの場合,医師が説明を行っていなかった
 ことが起こってしまったというような説明不足について責任が認められてい
 ます。医師が説明を行っていた場合については,医師が何らかの責任を問わ
 れることはありませんか。
第6 節 複数の関係者の事故
Q 27チーム医療
 事故に複数の医療従事者が関わっていた場合,医療施設や医療従事者の責任
 判断においてどのようなことが問題となりますか。転院等により,複数の医
 療機関・医師が関わっている場合はどうでしょうか。
第7 節 患者側の協力義務について
Q 28患者の協力義務
 医師や医療機関の義務のことばかりが指摘されているように思われますが,
 患者にも協力義務があるのではないでしょうか。判例が患者の協力義務を認
 めた事例にはどのようなものがあるでしょうか。

第 4章 個別分野・紛争の目多い類型次についての法律相談
Q 29医薬品投与による事故
 医師が投与した医薬品により,副作用が出現しました。医師の過失はどのよ
 うに判断されていますか。調剤した薬剤師の責任はどうでしょうか。副作用
 については,医薬品副作用被害救済制度というものがあると聞きましたが,
 これは利用できますか。
Q 30出産事故
 出産事故は訴訟に至ることが少なくないと聞きますがなぜですか。またどの
 ような事故が多いですか。産科医療補償制度を利用できるのはどのような場
 合でしょうか。
Q 31乳児のケアと医療事故
 健康上まったく問題がなかった乳児がうつぶせ寝やカンガルーケアの最中に
 心肺停止の状態に陥ったといったことを聞きますが,訴訟になった場合には
 どのようなことが争点となり,責任判断にあたってはどういった点が難しい
 でしょうか。
Q 32がん診療に関する訴訟の特徴
 ⑴がん治療で特に問題となる論点はどのようなものですか。
 ⑵がんについての説明義務違反は,他の疾患のものと比べてどのような違い
  がありますか。
 ⑶一般的な治療以外の治療について,裁判所はどのように扱っていますか。
 ⑷がん患者の遺族から相談を受けた際の,遺族固有の法的利益や注意点は
  どのように考えればよいですか。
 ⑸がんと診断され,手術をしたが,その結果,がんではないことが判明し
  た場合の責任はどのように考えればよいですか。
Q 33介護施設における医療処置と過失の判断枠組み
 介護施設ではどのような事故が多いですか。事故で怪我をしたり,誤嚥した
 り,安定していた疾患が急性憎悪した場合には,介護施設においても救命処
 置等の医療行為を実施すると思うのですが,過失はどのように判断されてい
 ますか。介護施設で働く医師等医療従事者が医療事故を招いた場合はどうで
 しょうか。過失の判断枠組みは,医療施設におけるのとは異なりますか。
Q 34精神科医療の特殊性
 ⑴精神科疾患患者に本人の同意なく,診療を受けさせたり,入院させたりす
  ることが,どのような場合に適法,違法と判断されますか。
 ⑵精神科入院ないし受診中に全身状態が悪化したにもかかわらず,十分な治
  療がされず,患者が死亡してしまった場合の責任は,通常の病院と同様に
  考えられますか。
 ⑶精神科入院中の患者が,医療従事者その他の人に加害行為を行った場合に,
  病院はどのような責任を負いますか。
Q 35精神疾患患者の自殺
 ⑴精神疾患の患者が自殺をしたというような場合に医療機関は責任を負いま
  すか。そのような患者の病態(自殺企図,希死念慮),入院形態(措置入院,
  医療保護入院等の別)によって課される責任は異なりますか。
 ⑵患者が自殺した場合,医療機関にどの程度の蘇生義務が課されますか。
 ⑶患者が自殺した場合,医療機関に顚末報告義務が課されますか。
Q 36歯科医療事故
 Xは,53歳の女性ですが,歯痛のため,以前から通院していたAが開設する歯
 科医院を受診し,レントゲン写真を撮るなどした結果,歯痛の原因が右下のい
 わゆる親知らず(埋伏智歯)にあるということでこの抜歯を行いました。抜歯
 は歯牙分割などの措置を講じないままで相当な力を込め2時間くらいかけて行
 われました。しかし,術後に痛みや腫れがひどい状態が続いたことから他院で
 診察を受けたところ,下顎骨骨折となっていることが判明し,入院のうえで治
 療を受けリハビリなどを受けましたが,咀嚼機能低下,軽度の発言明瞭度低下
 が残ることになりました。損害賠償を求めることができるでしょうか。
 一般の歯科医療においては,どのような事故・紛争が多く,一般の医療と比べ
 て,歯科医療ではどのようなことに気をつけて診療にあたるべきなのでしょう
 か。
Q 37インプラント事故
 患者Aは,学校法人Bが運営する歯科病院でインプラント手術を受けること
とし,サイナスリフトインプラントの埋設手術を受けました。担当医師はト
 レフィンバー(切削器具)を用いて患者の右下顎から骨移植に必要な移植骨
 を採取したうえでインプラント手術を完了しました。しかし,その後,患者
 の右オトガイ部分にしびれが生じたところから別の医師に診察してもらった
 ところ右側下歯槽神経麻痺と診断されました。Aは損害賠償の請求をするこ
 とができるでしょうか。インプラント治療がされた場合に,どのようなこと
 が紛争となるのでしょうか。また治療をする立場としては医療に際してどの
 ような注意をすべきでしょうか。
Q 38美容整形の特殊性
 Aは現在42歳の女性ですが,40歳頃から両頰や額のあたりに褐色のシミがで
 き皮膚科での治療を受けていたのですが,あまり効果がないのでYクリニック
 の医師に相談したところ,「あなたのシミはレーザー1回できれいになります」
 と言われたのでこの治療を受けることにしました。実際の治療に際してはAが
 レーザーの照射に対して強い痛みと熱さを訴えたので途中から麻酔をかけてと
 りあえず両頰の治療をしましたが,右頰については色素沈着の状態となり,さ
 らにかなりの程度のやけどが生じ,左頰には色素脱出の状態になっていました
 。他病院で診察を受けたところ,このシミは「肝斑」といわれるものであって
 これにレーザー治療をすることはシミについての増悪となり,禁忌とされるも
 のであるし,同時に頰の熱傷瘢痕と診察されました。Yクリニックに対して損
 害賠償の請求をしたいということでした。美容整形の場合の施術は通常の医療
 とどのような違いがありますか。思いどおりの結果が得られなかった場合に
 医師に責任がありますか。賠償額の算定はどのようになされますか。
Q 39レーシック治療
 カメラマンという職業を持つ男性ですが,子供の頃から強度の近眼で,やは
 り職業がら不便していました。そこで,医療法人である眼科クリニックで相
 談したところ,レーシック手術によって視力矯正が可能であるといわれ,私
 の強度の近視を矯正することができるならなんとしても実現したいという希
 望から同クリニックで手術を受けました。しかし,その結果としてかえって
 遠視になってしまい,不自由しています。手術前に近視矯正手術の適応性の
 ための検査を受け,レーシックについての簡単なパンフレットによってレー
 シック手術についての説明を受けたのですが,うまくいかないような場合に
 遠視の結果が生じることもあるなどというような細かなことは聞いていませ
 んでした。これについて責任を追及することはできるのでしょうか。また,
 裁判においてレーシック治療に関しては,どのようなことが問題となります
 か。責任追及にあたってどのような点が難しいでしょうか。
Q 40再生医療,細胞治療,遺伝子治療について
 再生医療,細胞治療,遺伝子治療とはどのようなもので,法律ではどのよう
 に規定されていますか。これらの治療を受ける際にどのようなことに注意し
 たらよいですか。再生医療を受けた患者から健康被害についての相談を受け
 た場合にどのように対応したらよいですか。
Q 41不妊治療や胎児診断,遺伝相談,避妊治療に関する訴訟
 ⑴体外受精のために,排卵誘発剤を用いて治療していたところ,肺水腫で
  死亡してしまいました。医療機関はどのような責任を負いますか。
 ⑵胎児診断や遺伝子相談が行われ,その結果が正しく伝わらず,生まれて
  きた子が重度の障害を負っていた場合に,医療機関はどのような責任を
  負いますか。
 ⑶夫が避妊治療を行ったにもかかわらず妊娠してしまった妻が医療機関の
  責任を追及することは可能ですか。
Q 42肺塞栓
 肺塞栓予防の具体的注意義務はどのように判断されますか。
 予防義務違反が認められた場合,結果との関係はどのように判断されますか。

第 5章 紛争解決の実務―律相次談から訴訟まで
第1 節 法律相談
Q 43法律相談
 法律相談を受けるにあたって,どのような準備が必要ですか。相談者からは
 何を聞き取ればいいのですか。法律相談で,何を説明し,どのようなアドバ
 イスをすればよいのですか。
第2 節 調  査
Q 44調  査
 なぜ調査が必要なのですか。調査では具体的に何をするのですか。調査委任
 契約書にはどのような条項を盛り込むのですか。
Q 45診療記録の入手
 診療記録とは何ですか。診療記録はどうやって入手するのですか。証拠保全
 とカルテ開示とでは何が違いますか。どちらの制度を選んだらいいのですか。
Q 46診療記録の分析・検討と専門知識の獲得
 診療記録はどのようにして分析・検討するのですか。専門知識が必要ですか。
 どのようにして,その専門知識を獲得したらよいのでしょうか。医学文献の入
 手方法,協力医の探し方を教えてください。
Q 47院内調査への対応
 医療事故が発生したとき,なぜ院内調査が行われるのですか。医療事故調査
 制度とは何ですか。医療事故の調査が実施される場合,患者側は何をすれば
 よいのですか。
Q 48判例等の調査
 事案を分析するにあたって,判例や和解例を調査すると聞きました。判例等
 の調査はなぜ必要なのですか。どのようにして判例等を調べるのですか。
 注意点は何ですか。
Q 49調査の終了と方針の決定
 調査はどの段階で終了するのですか。
 調査が終了した後,どのような選択肢があるのですか。方針を決めるうえで
 何を考慮すればいいのですか。
第3 節 訴訟前の交渉・補償
Q 50交渉・ADR
 ⑴医療機関とはどのようにして交渉するのですか。示談をするにあたって
  注意点はありますか。示談で盛り込まれる条項にはどのようなものがあ
  りますか。
 ⑵ ADR とは何ですか。ADR ではどのような解決が得られますか。
Q 51補償制度
 医療被害に対する補償制度として何がありますか。なぜ補償制度があるので
 すか。産科医療補償制度とは何ですか。医薬品副作用被害救済制度とは何で
 すか。
第4 節 訴  訟
Q 52損害賠償請求訴訟
 訴訟はどのような経過をたどって結論に至るのですか。医療事故に関わる訴
 訟は一般の民事訴訟と違いがありますか。
Q 53訴訟提起の期限
 訴訟を提起できる期間は決まっていますか。医療機関を相手に訴訟を起こす
 場合と,医師・看護師等の医療従事者を相手に訴訟を起こす場合で,訴訟を
 提起できる期間は決まっていますか。同じ医療事故についてであるにもかか
 わらず,なぜそのような違いがあるのでしょうか。事件からその期間を過ぎ
 てしまったら,絶対に訴訟を起こすことはできないのでしょうか。
Q 54提  訴
 どのような場合に民事裁判を提起するのですか。
 提訴から判決に至るまでの手続の概要を教えてください。
Q 55証  拠
 証拠は何のために提出するのですか。
 医療裁判の中で,どのような証拠が提出されていますか。
 書証はいつ提出するのですか。
Q 56争点整理
 争点整理とは何ですか。何のために争点整理をするのですか。争点整理にあ
 たって注意すべき点は何ですか。
Q 57証人尋問・当事者尋問
 証人尋問・当事者尋問とは何ですか。医療過誤訴訟では誰が尋問されるので
 すか。尋問に至るまでの手続の流れを教えてください。医療過誤訴訟の尋問
 で留意すべきことは何ですか。担当医に対してはどのような尋問が効果的で
 すか。
Q 58鑑  定
 鑑定とは何ですか。鑑定はどのような手順で実施されますか。鑑定では何に
 留意すべきですか。
Q 59和  解
 ⑴裁判所から和解勧告がなされたのですが,和解とは何でしょうか。
 ⑵医療訴訟では,和解で解決することは多いのでしょうか。
 ⑶和解をすべきかどうか,どのような点を踏まえて検討すべきなのでしょ
  うか。
 ⑷和解では,どのようなことが決定され,どのような内容の条項が盛り込
  まれるのでしょうか。
Q 60控  訴
 第1審で敗訴してしまい,納得がいきません。控訴ができると聞きましたが,
 そもそも控訴とはどのような手続でしょうか。
 控訴すべきかどうかは,どのように判断すればよいのでしょうか。
 また,控訴した場合,結審するまで1審と同じくらいの時間や労力が必要と
 なるのでしょうか。
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