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介護事故の法律相談


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介護事故の法律相談
 
編・著者平田 厚著
判 型A5判
ページ数312頁
税込価格4,104円(本体価格:3,800円)
発行年月2019年03月
ISBN978-4-417-01758-5
在庫有り
  
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■解説
介護事故の責任を負うのは誰か!?

〇誤嚥,転倒,徘徊等による介護事故をはじめ,最新の裁判例を
 もとにした多彩な事例を掲げて事故の実態を検証。
〇事故に関わる事業者,職員等,本人,家族の義務や責任,その所在について解説。
 実務に必須の1冊!


はしがき
社会福祉基礎構造改革が実施され,高齢者福祉の分野では介護保険法が制定され,
障害者福祉の分野では障害者総合支援法が制定されてきました。社会福祉基礎構
造改革前は,福祉サービスの提供が措置という行政処分に基づいて行われていま
したが,構造改革によって契約に基づくこととされました。そのため,利用者の
権利意識が向上し,事業者はサービスの質の向上に取り組んでいます。
しかしながら,実際の介護の現場では,さまざまな形で介護事故が発生していま
す。もともと要介護状態にある人は,事故に遭ってしまう抽象的な危険性がある
のですから,事故の具体的な危険性が生じたときに適切な対応が行われなければ,
すぐに介護事故に発展してしまいます。
福祉サービスの利用者や利用者の家族が福祉サービスに求めているのは,単にお
世話を受けることだけでなく,安全な環境で安心して生活できることでもありま
す。したがって,事業者は,できる限り介護事故が起きないように注意しなけれ
ばなりません。ところがやみくもに事故を予防しようとすると,かえって利用者
の人格を否定することになってしまいます。その典型的な例が身体拘束なのです。
つまり,転倒しやすい高齢者を受け入れて転倒事故をやみくもに予防しようとす
れば,利用者の身体を拘束して転倒すらできなくするという対処になってしまい
,かえって利用者の人格を否定することになるのです。
そうだとすれば,福祉の現場に求められているのは,利用者の人格を最大限に尊
重しつつ,できる限り介護事故が生じないように努力することだろうと思います。
介護事故の裁判で事業者の法的責任が認められるということは,その努力が足り
なかったということになりますから,さまざまな裁判例を参考にして,介護事故
を予防する取組みを行っていくべきでしょう。
本書では,おおまかに施設サービスと在宅サービスとに分けて裁判例を整理して
Q&Aを作成してみました。ただし,ショートステイ中の転倒事故と誤嚥事故
については,施設サービス中の事故に含めてまとめています。ショートステイ中
の転倒事故と誤嚥事故は,施設サービス中のそれらの事故との連続性があると考
えたからです。かえって参照しにくくなってしまったかもしれませんが,そのよ
うな趣旨ですのでご理解ください。
筆者は,明治大学専門職大学院法務研究科(法科大学院)で開設当初から民法を
担当している専任教授であり,福祉分野を含めて幅広く法的紛争に対応してきた
弁護士でもあります。判断能力の不十分な方々の権利擁護制度の整備や福祉現場
のリスクマネジメント体制の構築に筆者が関わってきて,すでに30年近く経過し
てきたことになります。筆者も福祉現場の実態を知らないわけではないと思って
いますが,福祉現場に特有なご苦労が次々と生じてきているのが現実かと思いま
す。本書は,法律家から見た介護事故の捉え方・介護事故に対するアドバイスを
書いているものです。
筆者の考え方が必ずしも十分に表現できていないという部分もあるかとは思いま
すが,福祉現場で介護事故の予防に日々頑張っていらっしゃる施設長や職員の方
々,さまざまな生活上の課題や悩みを抱えていらっしゃる福祉サービスの利用者
や家族の方々,さらに,福祉現場に対して支援を行っている専門職の方々などに
とって,少しでも参考になることがあれば幸いです。
本書が出来上がるに当たっては,株式会社青林書院編集部の長島晴美氏と森敦氏
(“あつし”ではなく,“おさむ”とお読みするそうです。)のお世話になりま
した。お二人には,本書の不十分な点を随分修正していただきました。感謝申し
上げます。

2019年3月
平田  厚


著者紹介
平田  厚:明治大学専門職大学院法務研究科教授/弁護士



■書籍内容
目  次
第1章 介護事故とは
Q1 債権法改正と介護事故の諸相
  福祉サービス事業を行うにあたっては,介護事故が起きないように注意しなけれ
  ばならないと思いますが,もともと事故が起きやすい人が利用者となっています
  から,介護事故を予防することはかなり困難な仕事だろうと思います。債権法改
  正の影響はあるのでしょうか。また,その影響を踏まえてどのような事故を想定
  して,どのように予防すればよいのでしょうか。
Q2 事業者の責任
  福祉サービス事業者は,福祉サービスを提供するにあたって,どのような責任を
  負っているのでしょうか。足腰の弱ってきた高齢者であれば,常に転倒の危険姓
  があり得ると思いますが,福祉サービス事業者が運営する施設内で転倒事故が起
  きた場合,事業者はその責任を負わなければならないのでしょうか。そうだとす
  れば,高齢者施設では,転倒事故に基づく責任を免れるために,高齢者を身体拘
  束せざるを得ないという判断も出てくると思うのですが,それでよいのでしょう
  か。
Q3 職員等の責任
  介護事故が起きた場合,福祉サービス契約における安全配慮義務あるいは保護義
  務は契約当事者となった社会福祉法人や会社が負うことになると思いますが,実
  際に事故を起こしてしまった職員は責任を負うのでしょうか。また社会福祉法人
  の理事や監事などが責任を負うこともあるのでしょうか。
Q4 本人の責任
  介護事故に遭ってしまった場合,本人がその責任をとらされてしまうこともある
  のでしょうか。本人が自傷行為をしてしまった場合に,本人がその結果を引き受
  けることとなっても仕方ないでしょうし,本人が他の利用者などに他害行為をし
  てしまった場合に,その被害者に対して責任能力がある限り損害賠償責任などの
  法的責任を負うのも当然でしょう。しかし,介護事故に遭った場合に,本人の責
  任が認められて,例えば損害賠償額を減らされてしまうことなどはあるのでしょ
  うか。
Q5 家族の責任
  介護事故に遭ってしまった場合,家族もその責任の一部を引き受けさせられてし
  まうこともあるのでしょうか。福祉サービスの事業者によって本人が介護事故に
  遭った場合,家族の責任が認められて,例えば損害賠償額を減らされたり,介護
  事故に基づく別な事故の責任を負ったりすることなどもあるのでしょうか。

第2章 高齢者施設等での事故
第1節 転倒事故
Q6 認知症でコミュニケーション困難な人の転倒事故
  老人保健施設に入所していたAさんは,認知症でコミュニケーションが困難であ
  り,また,自力歩行も困難な人でしたが,非常に活動的な人でした。ある日の日
  中,施設内で転倒し,左下肢骨折・右大腿骨骨折・左大転子部褥瘡及び仙骨部褥
  瘡の傷害を負い,両下肢機能障害の後遺症を生じました。
  Aさんの相続人である原告らは,施設を運営する被告の医療法人に対して,Aさ
  んの傷害・後遺症は,被告がAさんの監督や治療を怠ったことが原因であるとし
  て,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求しています。
  Aさんの相続人である原告らの請求は,どのような主張・立証ができれば認めら
  れるのでしょうか。
Q7 認知症がある人の再度の転倒事故
  Aさんは,認知症で物盗られ妄想があり,また,徘徊によって警察に保護された
  りしたため,グループホームに入所しました。入所時は,中程度の認知症があり,
  声かけや見守りによって自立した日常生活を送っていましたが,その後認知症は
  進行し,入所の約2年後には,居室のカーテンを開けようとして第1の転倒事故に
  遭い,大腿骨骨折によって100日ほど入院しました。そして,その数か月後には,
  また居室のカーテンを開けようとして第2の転倒事故に遭い,座骨骨折によって
  100日ほど入院することとなりました。
  Aさんの成年後見人は,このグループホームを運営する被告に対して,それまで
  成年後見人がAさんの習慣的行動に基づく具体的な危険性を指摘した要望を出し
  ていたにもかかわらず,事故発生及び損害拡大の防止のために十分な対策がとら
  れなかったとして,債務不履行に基づく損害賠償を請求しました。
  被告としては,どのような反論が可能でしょうか。
Q8 ほぼ全盲で認知症による徘徊癖もある人の転倒事故
  Aさんは,ほぼ全盲で認知症による徘徊癖も見られる状態で,被告が運営する特
  別養護老人ホームに入所しました。Aさんは,入所当時から,介護者との意思疎
  通はできており,介助(手引き等)ないし壁に取り付けられている手すり伝いで
  トイレや食堂に行っており(車いすも使用),通常,夜間は居室で,昼間は廊下
  の長いすに座って過ごしていましたが,時々徘徊することもあったため,被告の
  職員は,所在確認と声かけ等により転倒防止に努めていました。
  ところがある日の朝,職員がいつものようにAさんに居室で朝食をとらせようと
  準備し,Aさんをいすに座らせて,食事を持ってくるまで待つように言って,他
  の利用者の食事の準備をしていたところ,Aさんが居室を離れて食堂に向かい,
  食堂で転倒してしまいました。
  Aさんの応答はいつものとおりで何も変わったことはなかったそうですが,職員
  の指示に反して一人で居室を出ていってしまったのは初めてだったようです。
  このような事故の場合,忙しい現場で,もしかしたらという場合にまで備えて対
  応することは困難だと思います。Aさんの転倒事故に対して,施設側では法的責
  任をとらなければならないのでしょうか。
Q9 認知症の利用者の見守り不足による転倒事故
  Aさんは,老人介護施設に入所していましたが,入所後何回も転倒していました。
  ある日,Aさんがベッドから立ち上がったにもかかわらず,施設側はそれを把握
  していなかったため,Aさんは転倒して大腿骨を骨折してしまいました。施設側
  としても,Aさんの転倒の危険性が著しく高いことをよく知っていたにもかかわ
  らず,適切な転倒事故回避のための措置を講ずることなく転倒事故を生じさせた
  として,入所利用契約上の安全配慮義務違反であると指摘されています。Aさん
  の転倒事故に関する施設側の法的責任は免れないと思いますが,このような場合,
  どのように対処すればよかったのでしょうか。
Q10 ショートステイでの見守り不足による転倒事故
  Aさんは,平成20年5月ころから,被告施設のショートステイをたびたび利用し
  ていましたが,平成21年8月19日午後1時20分ころ,ショートステイを利用中,施
  設3階のユニットの共同生活室から個室に移動する際,個室入口付近で後ろ向きに
  転倒し,搬送先の病院で胸椎圧迫骨折等と診断されました。Aさんは,同月20日,
  発熱や呼吸困難等の症状のため他の病院に入院しましたが,同年10月19日に死亡
  してしまいました。
  このショートステイ利用契約書でも,安全配慮義務が明文化されていますが,シ
  ョートステイを利用する高齢者に関しては,入所している高齢者とは異なり,そ
  れほど多くの情報があるわけでもないため,その方の特性をつかみにくい面もあ
  るかと思います。ショートステイでそれほど情報のない利用者の転倒事故を防止
  するためには,どのようなことに注意すればよいのでしょうか。
Q11 ショートステイでの徘徊行動による転倒事故
  Aさんは,平成21年7月28日から同月30日まで被告が運営する本件施設のショート
  ステイを利用した後,同年11月17日から再びショートステイを利用しましたが,
  Aさんが徘徊行動を繰り返したため,被告の職員は見守りを実施するとともにベ
  ッドに離床センサーを設置し,Aさんが離床する都度対応していました。Aさん
  は,同月21日午後8時50分ころ,引き続き個室にて入眠しましたが,同日午後10時
  ころから翌22日午前2時30分ころにかけて,5回にわたり,離床して徘徊するなど
  してセンサーを反応させましたが,被告の職員はその都度,Aさんの居室に行き,
  Aさんを誘導してベッドやソファに臥床させたようです。
  しかし,翌日午前6時20分ころ,Aさんの個室のセンサーが反応し,センサー反応
  から約15秒後,Aさんの居室から「ドスン」という物音があり,被告の職員はA
  さんがベッド脇に右側臥位で倒れているのを発見しました。Aさんは,搬送され
  た病院で,頭部打撲による脳挫傷と診断されました。
  このような事例では,施設側ではできるだけのことは行っていると思うのですが,
  転倒事故という結果が発生している以上,施設側はAさんの転倒事故に対する法
  的な責任を負わなければならないのでしょうか。
Q12 ショートステイ中の居室内転倒事故
  Aさんは,平成22年12月20日に被告との間でショートステイの利用契約を締結し,
  たびたび利用していました。Aさんは,ショートステイを利用する際には,主と
  して施設4階にある居室を利用していました。Aさんは,平成23年9月11日,ショ
  ートステイ利用中,居室のトイレ内で転倒して頭部を打撲し,この打撲によって
  後頭部痛や嘔吐等の症状を生じたため,同月12日には帰宅しました。
  しかしまた,Aさんが同月23日から本件サービスを利用して4階の居室で生活して
  いたところ,同月30日午前3時55分ころ,Aさんがナースコールにより被告の職員
  を呼んだため,被告の職員が居室を訪問すると,職員に対してAさんはまたトイレ
  内で転倒したと告げました。職員がAさんの負傷状況を確認したところ,右額の腫
  れ,左額の腫れ及び内出血,左前腕部の内出血,右前腕部の内出血及び右ふくらは
  ぎの内出血を確認しました。
  同月30日午前9時40分ころ,Aさんを病院に連れて行ったところ,Aさんは右急性
  硬膜下血腫を発症しており,植物状態に近い状態となって,Aさんは同年11月29日
  に別の病院に転院しましたが意識を回復することがないまま,平成26年6月8日に急
  性硬膜下血腫を原因とした呼吸不全により死亡しました。
  このような場合,施設側はどのような法的責任を負うのでしょうか。
Q13 介護付老人ホーム体験入所中の転倒事故
  Aさんは,平成21年7月30日当時85歳でしたが,被告の運営する介護付老人ホームに
  体験入所し,1泊あたり2万2000円を支払う旨の契約を締結しました。平成21年8月28
  日午後5時30分ころ,被告の従業員が,本件施設の4階にあるX号室に入居していた
  Aさんに対し,夕食に行く準備をするように声をかけた後,4階フロアの他の入居者
  に対して同じく夕食の準備のための声かけをするためにAさんの居室を離れたとこ
  ろ,Aさんはその間に自力で居室から出たところで転倒し,右大腿骨骨折の傷害を
  負いました。
  Aさんは,被告が安全配慮義務を怠ったために,施設内で転倒し重傷を負い,歩行
  機能が大幅に低下したとして,被告に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。心
  身の状況に特に問題のない人が介護付老人ホームに体験入所している場合であって
  も,このような転倒事故について施設を運営している被告が法的責任を負うのでし
  ょうか。
第2節 転落事故
Q14 不適切な対応が行われたことによる転落事故
  Aさんはほぼ全盲の状態ですが,最近,認知症の症状が出てきたため,Aさんの内
  縁の夫は,施設入所も考えてみなければならないのではないかと思い,Aさんと話
  し合って,Aさんは老人保健施設に入所することになりました。しかし,Aさんは,
  共同生活になかなか慣れることができず,入所の約3週間後に同室の女性と口論にな
  ってしまい,興奮状態となってしまいました。Aさんが家に帰りたいと言うので,
  施設の職員はとりあえずAさんに落ち着いてもらおうと思い,そのフロアの空部屋
  にAさんを閉じ込めてしまいました。Aさんは,その部屋の窓を開け,その部屋に
  あった家具を利用して窓から身を乗り出したところ,目隠しフェンスを乗り越えて
  建物の真下に転落して死亡してしまいました。このような場合,施設側はAさんの
  死亡について責任を負うことになりますか。
第3節 誤嚥事故
Q15 うつ症状のある高齢者の誤嚥事故
  Aさんは事故当時82歳でうつ症状もありましたが,特別養護老人ホームに入所して
  ケアを受けていたところ,食事介助中に牛乳に浸したパンを喉に詰まらせてしまい,
  30分後に亡くなってしまいました。Aさんは,おそらくパンを飲み込もうとしたも 
  のの,パンが食道に残ってしまい,呼吸とともに気管に流れ込んでしまったために
  窒息してしまったと考えられるのですが,このような事故の場合,Aさんの死亡に
  関して,施設側に法的責任は認められるのでしょうか。
Q16 介護付有料老人ホームでのロールパン誤嚥事故
  介護付有料老人ホームである施設に入居していたAさんは,ホーム入居3日目に自室
  において朝食を摂っていたところ,施設から提供されたロールパンを誤嚥し,窒息
  死するという事故が発生しました。Aさんは,ホームに入所する際には,嚥下能力
  に問題があるとは指摘されていませんし,入居1日目,2日目にも食事について何も
  問題はなかったようです。したがって,Aさんは,食事介助を受けることなく,自
  室において自分でロールパンを食べていたようですが,このような事故の場合,A
  さんの死亡に関して,ホーム側に法的責任は認められるのでしょうか。
Q17 ショートステイでの朝食中の誤嚥事故
  Aさんは,介護老人保健施設にショートステイで入所し,入所2日目の朝食の際に,
  ロールパン(6〜7僂里發痢2個,牛乳200mlパック,具入り卵焼き(石垣卵)及び
  オニオンスープが提供されましたが,その直後に,鼻から牛乳を出してむせている
  ところを職員により発見されたため食事を中止し,その後に施設長から指示を受け
  た看護師が口内吸引をして牛乳及び残渣物が吸引されたものの,さらにAさんの様
  子が急変してチアノーゼを呈して心肺停止状態に陥りました。施設長がパンの塊等
  を指で取り除き,気管挿管及び心臓マッサージを行って心拍は再開して呼吸も回復
  したものの,意識は回復しないままとなってしまいました。
  そのため,Aさんについて成年後見開始審判に基づいてAさんの長男が成年後見人
  に選任され,Aさんの長男が施設に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。そも
  そもAさんは,嚥下能力が大分低下している状況にあり,食材は一口大に小さくし
  て提供するよう申し送りがなされていたにもかかわらず,ロールパンがそのまま提
  供されるなど,かなり対応に疑問がある状況です。このような事故の場合,Aさん
  の誤嚥事故に関して,施設側に法的責任は認められるのでしょうか。
Q18 特別養護老人ホームの自由食事での誤嚥事故
  Aさんは,特別養護老人ホームに入所し,6年以上,そこで生活してきました。A
  さんの嚥下能力は低下しつつあり,食事の際には十分な見守りが必要な状態になっ
  ていました。ところで,この特別養護老人ホームでは,1か月に1回,自由食事の日
  を設けて,入所者が自由にメニューを選択し,きざみ食材で調理された出前を取る
  ことができるようになっていました。
  Aさんが出前で取られた玉子丼を食べていたところ,何かを誤嚥したらしく,Aさ
  んが口から泡を出している様子が発見され,吸引措置をとって,かまぼこ片を取り
  出すことを繰り返しました。その後は,Aさんが問いかけに応じるようになり,
  徐々に顔色が赤みを帯びてきたため,職員らは,車いすに乗ったAさんを食堂から
  寮母室の前に運んで経過をみることにしました。
  しかしその後,Aさんが顔面蒼白でぐったりしている様子を職員が発見したため,
  救急車の出動を要請し,Aさんは病院に入院しましたが,約10か月後に死亡しまし
  た。このような事故の場合,Aさんの容態が急変した原因も,10か月後に死亡する
  に至った原因も,それぞれ非常にわかりにくいように思われますが,Aさんの誤嚥
  事故に関して,施設側にAさんの死亡に至るまでの法的責任が認められるのでしょ
  うか。
Q19 介護付有料老人ホームでの誤嚥事故
  Aさんは,介護付有料老人ホームに入所し,その約3か月後の夕食時,本件施設の
  食堂において意識不明の状態となっているところを介護職員に発見され,救急車に
  より付近の病院に搬送されましたが,病院到着時において,心肺停止状態であり,
  救命措置等により心拍が再開し,一時は自発呼吸もみられたものの,意識が戻らな
  いまま,搬送6日後に死亡しました。
  Aさんは,日常生活の能力がかなり低下しており,排泄,入浴,衣服の着脱に全面
  的な介助が必要であり,食事の一部介助も必要な状態であるとされていましたが,
  食事の内容は常食とされており,時折,介護職員による食事介助を受けることがあ
  ったものの,嚥下能力が不十分となっているという兆候はなかったようです。
  Aさんの子どもであるBさんとCさんは,本件施設を運営している被告に対し,安
  全配慮義務違反があったと主張して,債務不履行に基づく損害賠償を請求しました。
  また,BさんとCさんは,被告が,監視カメラに誤嚥の状況が録画されていたのに,
  その録画を消去したうえ,謝罪の態度を示すことなく不誠実な対応をしたとも主張
  しています。このような請求は認められるのでしょうか。
Q20 グループホームでの突然の嘔吐と下痢
  Aさんは,グループホームにおいて認知症対応型共同生活介護サービスを受けてい
  ましたが,ある日の午後9時ころ,「おなかが痛いよ」と言って居室への誘導を拒否
  し,ソファーで横になったまま夕食のハンバーグを嘔吐しました。職員がAさんの
  状態を看護師に説明しましたが,「念のため病院でCT検査が実施できるか確認して
  ほしい。」と言われ,救急外来を受診してCT検査を実施できるか問い合わせたとこ
  ろ,「CT検査は実施できるが当直医では大した処置もできない。結局翌日に来るこ
  とになる。」と言われました。
  被告の職員は,30分あるいは1時間おきにAさんの様子をうかがっていましたが,
  翌朝の午前8時30分ころ,Aさんに下痢があったため,職員がAさんの全身を拭いた
  ところ,拭くとそばから軟便が出てくる状態になっていました。午前10時過ぎになる
  と,Aさんは声かけに対して返答はするものの,目の焦点が合っておらず,いつもの
  様子と違うと感じたため,午前10時19分に救急車を手配して病院に搬送しました。
  その後,Aさんは入院先で心停止となり,死亡しました。
  このような場合,Aさんの死亡に関して,施設側に法的責任が認められるのでしょう
  か。
Q21 異食行動と誤嚥事故
  Aさんは,認知症の問題行動が出てきたため,特別養護老人ホームに入所しました
  が,特に紙おむつなど食物以外のものを口に入れてしまう異食癖があり,ホーム側も
  そのことは認識していました。Aさんは,ホーム入所の約1年半後,疥癬に感染して
  いると診断されたため,他の入所者への感染を防止するために相部屋から個室に変更
  されました。しかし,その数日後,Aさんが居室内で喉を詰まらせて倒れているとこ
  ろを職員が発見し,救急車で病院に搬送しましたが,Aさんは病院で死亡してしまい
  ました。Aさんの死因は,誤嚥による窒息と診断されています。Aさんは,居室内に
  あった紙おむつをちぎって食べてしまったようで,紙おむつを誤嚥したことが死因
  だったようです。このような場合,Aさんの死亡に関して,施設側に法的責任が認め
  られるのでしょうか。
Q22 食事方法の変更と誤嚥事故
  Aさんは,平成15年8月に被告が経営する介護老人保健施設に入所しました(当時86
  歳)。Aさんは,パーキンソン症候群の症状が進み,通常食を摂れない状態となって
  おり,お粥とミキサーでペースト状にしたおかずを食べていました。施設でも誤嚥に
  注意するという認識が共有されていましたが,その後,Aさんの心身の状態が好転し
  たため,「むせが見られる誤嚥はなく,食事摂取されている。」などと観察されるよ
  うになり,Aさんが「刺身とうなぎについて常食で提供してほしい」と希望したた
  め,平成15年10月からは,4品目を常食で提供することを決定しました。
  平成16年11月3日の昼食の際,誤嚥やむせの危険がある入所者に関しては,職員の目
  が届きやすいようにまとめて着席させており,Aさんもそのような位置の椅子に座っ
  ていましたが,Aさんが刺身を食べていたところ,前に座っていた他の入所者がAさ
  んの異変に気づきました。看護師は,吸引したりしましたが,異物の確認はできず,
  隣接する病院の医師が気道内にあった刺身一切れを除去して,気管内挿管を行いまし
  たが,Aさんの心肺機能は回復したものの,意識を回復することはなく,植物状態と
  なってしまい,平成17年3月17日に亡くなってしまいました。このような場合,Aさ
  んの死亡に関して,施設側に法的責任が認められるのでしょうか。
Q23 嚥下障害のある人のミキサー食と誤嚥事故
  Aさんは,平成12年から被告が運営している特別養護老人ホームに入所しましたが,
  平成16年には職員の不注意によるやけど事故に遭っているようです。やけど事故の
  入院から本件施設に戻った後は,Aさんは,朝食を被告職員の全介助で食べており,
  しかも米粒を食べる際にむせるようになったため,夕食は主食がおもゆに変更され,
  食事介助も必要になっていました。
   しかし,介護職としての経験がなく,施設においても嚥下障害のある入所者に対
  する食事介助についての教育や指導を体系的に受けたことのない職員が,「少量ずつ
  食べてもらう,しっかり飲み込んだことを確認するという点について注意するよう
  に」と口頭で言われているだけの状態で食事介助を行った結果,平成17年7月18日の
  朝食時,Aさんは,誤嚥により摂取物が気管に詰まったため呼吸困難となり,同日,
  病院に搬送されましたが,意識が戻らないまま同年8月8日に死亡しました。
  度重なる職員のミスによってAさんは亡くなってしまったと思いますが,このような
  場合,Aさんの死亡に関して,施設側に法的責任が認められるのでしょうか。
Q24 認知症ショートステイ利用者の誤嚥事故
  Aさんは,著しい嚥下障害のある認知症高齢者です。Aさんは在宅において家族から
  あまり十分なケアを受けられていないようなので,私が勤務しているショートステイ
  を利用してもらい,少しでも楽に過ごしていただけたらと思い,Aさんの家族にもそ
  のように勧めてきました。確かにAさんを受け入れるのは,相当リスクがありますか
  ら,Aさんをショートステイで受け入れることについて難色を示す同僚もいたのは事
  実です。しかし,このままでは,Aさんは十分なケアが受けられないことになります
  から,リスクを踏まえてAさんのショートステイ利用を受け入れました。ところが,
  介護職員がAさんの食事介助を行い,薬を飲ませていたところ,その直後に異変が生
  じ,救急車が到着した時には,Aさんは既に呼吸停止・心停止状態になって誤嚥事故
  となってしまいました。このような場合であっても,ご家族からの損害賠償請求には
  全面的に応じなければならないのでしょうか。
Q25 完全に不適切な対応に基づく誤嚥事故
  Aさんは,たびたび被告が経営しているショートステイを利用している軽度の認知症
  高齢者ですが,嚥下障害が著しくなってきていました。平成13年の忘年会では,昼食
  におでんが出されましたが,担当職員がAさんを乗せた車いすを止めて正面に立ち,
  中腰でやや見下ろすような姿勢でAさんの食事の介助をし,Aさんの他にもう一人の
  入所者の食事介助も同時に担当していました。
  この施設では,食材をいわゆる「きざみ」にするのでなく,「一口大」にしており,
  担当職員は,Aさんにこんにゃく2片を食べさせ,次いで,はんぺん1片を食べさせた
  後,介助を担当していたもう一人の入所者に声かけをし,Aさんに目を戻したとこ
  ろ,Aさんが苦しそうな声を発しているのを発見しました。
  職員は,右手で背中を叩いてタッピングをし,駆けつけた複数の看護職員らもAさん
  を逆さにしてタッピングをしましたが,Aさんは心肺停止状態で病院に救急搬送さ
  れ,午後2時26分,窒息を直接の死因として死亡しました。
  このような場合,このショートステイを経営している被告は,Aさんが死亡したこと
  に基づく責任を負うべきだと思いますが,このような事故をなくしていくにはどうし
  たらよいのでしょうか。
第4節 入浴事故
Q26 日中の浴室への入り込みによる溺死事故
  Aさんは,平成17年3月12日に交通事故で入院しましたが,言語障害を発症し,ほぼ
  同時に認知症の症状が出始め,病院を抜け出して徘徊するようになったことから,同
  年4月に被告の経営する介護老人保健施設に入所しました。平成19年12月29日午後0時
  30分ころ,Aさんが食堂で昼食中に居眠りをしていたため,職員が介助して昼食を食
  べさせましたが,その後Aさんが所在不明となったため探したところ,午後3時20分
  ころ,浴室の湯をためた浴槽内に横向きに入っている状態のAさんを発見しました。
  職員らは,Aさんを浴槽から引き上げ,心肺蘇生施術を開始し,AEDを装着するなど
  しましたが改善がみられず,Aさんは,救急車により,病院に搬送されました。本件
  事故発生当日,浴室に入る扉は施錠されていましたが,隣接する浴室の脱衣室との間
  の仕切りドア及び浴室の浴槽への扉は施錠されていなかったようです。そうすると,
  Aさんは,浴室の脱衣室との間の仕切りドアから浴室に入り込み,自分で浴室におけ
  る給湯栓を開いて浴槽を42度前後の大量の湯で満たし,そこに入って相当時間身を沈
  めたようです。このような事故の場合,施設側は,Aさんが浴室に勝手に入り込んで
  溺死したことに基づく責任を負うのでしょうか。
  
第3章 高齢者在宅サービス中の事故
第1節 転倒事故
Q27 ボランティアのガイドヘルプの際の転倒事故
  Aさんは,脳出血のため病院に入院して治療を受けましたが,左半身麻痺の後遺症が
  残ったため,通院してリハビリテーションの訓練を受けるようになりました。Aさん
  は,杖をついて独力で歩行することは可能であったものの,屋外では,介助者が近く
  に立って動静を監視し,倒れそうになるなど危ないときにはすぐに手を出して支える
  ことができるような体制,いわゆる近位監視歩行をとる必要があるとされていまし
  た。Aさんは,リハビリ通院について,ボランティアによる歩行介護を受けており,
  病院でリハビリ訓練を受けて帰宅する際,玄関の風除室まで来たところ,たまたま,
  車寄にタクシーが来ていなかったため,ボランティアであった被告は,風除室の外に
  向かって左側の壁際にAさんを連れて行き,「ここで待っていてください。タクシー
  を呼んできますから。」と言い残して,小走りで玄関から外に出ました。するとすぐ
  にドサッという音が聞こえたため振り向いたところ,Aさんが玄関外側の自動ドアの
  マットの上に尻餅をつくような形で転倒していました。Aさんはこの転倒事故によっ
  て右足大腿骨頭部を骨折しました。
  このような事故の場合,ボランティアは,Aさんが転倒して骨折したことに基づく責
  任を負うのでしょうか。
Q28 雨天でのガイドヘルプの際の転倒事故
  Aさんは,人工透析を受けるために通院する際,歩行も非常に不安定であったため,
  ホームヘルパーに通院のガイドヘルプを頼みました。そして,ホームヘルプを行うに
  あたっては,Aさんの娘さんらの要望を受け,Aさんとの間で,室外での歩行介助に
  おいては,腕を組むなど必ずAさんの身体に触れて介助をすることを取り決めていま
  した。しかし,ある通院日は,土砂降りの大雨で,傘をさしている状況であり,しか
  もヘルパーは人工透析用の器具を持ったままAさんをタクシーに乗せようとしたとこ
  ろ,Aさんの身体が回転してAさんは転倒してしまいました。
  Aさんは,この事故によって大腿骨頸部骨折の傷害を負ってしまいましたが,訪問介
  護を運営している会社はAさんの転倒事故の責任を負うのでしょうか。また,Aさん
  の娘さんも,Aさんが歩行不能になったために会社を退職し,Aさんの介護に専念す
  ることになって得られたはずの給与を失ったとして,不法行為等に基づき,損害賠償
  を請求していますが,そのような責任まで負わなければならないのでしょうか。
Q29 デイサービスと宿泊サービス中の転倒事故
  Aさんは,徘徊することがあり,歩行が小刻みになり不安定であったため,転倒の危
  険がみられる状態でした。Aさんは,平成17年4月,被告との間で,被告が運営する
  施設においてデイサービスの利用契約を締結し,次いで被告の施設における宿泊サー
  ビス契約を締結しました。Aさんは,平成18年12月10日,本件施設においてデイサー
  ビスに続いて宿泊サービスを利用していましたが,翌日11日の午前3時ころ,施設内
  のデイルームと呼ばれる広間に仰向けに倒れているところを被告の職員によって発見
  されました。Aさんは,病院に救急車で搬送され,治療後に本件施設に戻りました
  が,その後に左側頭部の脳内出血を原因とする肺炎によって,平成19年2月16日に死
  亡しました。被告施設は,デイルームとプレイルームと呼ばれる広間との間にテーブ
  ルによるバリケードを設置し,デイルームからプレイルームには移動ができないよう
  にすることによってAさんが徘徊することに対処しようとしていました。
  このような状態でAさんが転倒事故に遭遇した場合,Aさんの転倒事故について,被
  告は法的責任を負うのでしょうか。
Q30 デイサービス中のトイレ同行拒否による転倒事故
  Aさんは,平成12年から被告との間で通所介護契約を締結したうえ,被告施設におけ
  る通所介護サービスを利用していました。Aさんは,何かにつかまらなければ立ち上
  がることはできず,杖をついて歩行することはできましたが,歩行は不安定で,いつ
  転ぶかわからない状態でした。
  Aさんは,平成14年7月1日,送迎車を待つ間,近くにあるトイレまで歩いて行こうと
  しました。それを見た職員は,Aさんの介助をしようと考え,「ご一緒しましょ
  う。」と声をかけ,トイレの入口まで右手で杖をつくAさんの左腕側の直近に付き
  添って歩き,Aさんの左腕を持って歩行介助を行いました。Aさんがトイレに入ろう
  とスライド式の戸を半分ほど開け,Aさんがトイレの中に入ったところ,Aさんが内
  側から本件トイレの戸を自分で完全に閉めたため,Aさんがトイレから出る際にまた
  歩行の介護を行おうと考えてその場を離れました。ところがAさんは,杖が右方にす
  べったため,横様に転倒して右足の付け根付近を強く床に打ち,右大腿骨頸部内側骨
  折の傷害を負いました。このような経過でAさんが転倒事故に遭遇した場合,Aさん
  の転倒事故について,被告は法的責任を負うのでしょうか。
Q31 デイサービス送迎中玄関内での転倒事故
  Aさんは,Cが提供する通所介護サービスとして,車での送迎,食事提供,入浴,移
  動見守り,個別機能訓練等とすることを合意しました。Aさんの居宅サービスに関
  し,「低血糖であって足の痛みにより歩行状態が不安定で,転倒のリスクが高く,
  サービス提供時には注意が必要である。」「基本的に車いすを使用する。できるだけ
  歩けるところは歩いていただく。しかし転倒し骨折した経験があるため,必ず職員に
  付き添ってもらうようにする。」という今後の方針が出されています。
  Cの職員であるBさんは,平成23年8月5日,Aさんを自宅に送って行き,ドアが閉ま
  らないように右足でドアを押さえながら,Aさんの身体を支えて玄関内に入り,Aさ
  んがを置いていすに右手を着いて右足を玄関マット上に踏み出したところ,Aさんの
  右つま先が玄関マットにつまずく形となって前方に転倒し,Aさんは右大腿骨転子部
  骨折の傷害を負いました。このような事故の場合,Aさんの転倒事故について,Cは
  法的責任を負うのでしょうか。
Q32 ショートステイ送迎中玄関先での転倒事故
  Aさんは,高血圧症と骨粗しょう症の診断を受けており,平成23年12月から平成24年
  2月まで胸腰椎圧迫骨折により入院し,同年6月20日から同年7月6日まで右頬部化膿性
  皮膚感染症により入院していました。Aさんは,身長約135〜140僂琶盥垰には前傾
  気味でしたが,骨折による入院のために下肢筋力がいっそう低下し,左目を失明して
  右目も目の前が見える程度の視力であり,4点杖を使って歩行しても転倒するリスク
  があったことから,歩行や立ち上がり等のための介助を必要としていました。
  Aさんは,平成21年5月13日,Cとの間でショートステイ利用契約を締結し,何回も
  被告のショートステイ・サービスを受けてきましたが,平成24年9月9日午後5時40分
  頃,雨天の中,Cの従業員Bの送迎により本件施設から自宅に帰宅する際,自宅前の
  階段を踏み外して転倒,転落し,階下の道路に後頭部を強打するなどして脳挫傷等の
  重傷を負い,救急搬送を受けて病院に入院しましたが,同年11月18日(当時100
  歳),入院中に本件事故に起因する誤嚥性肺炎となり,死亡してしまいました。
  このような事故の場合,Aさんの転倒事故について,Cは法的責任を負うのでしょう
  か。
Q33 ホームヘルプ中の転倒事故
  Aさんは,平成22年8月12日,Cと訪問介護契約を締結しました。Aさんのアセスメ
  ントシートによれば,座位,立位及び歩行については「支えがあればできる」とされ
  ていたようです。また,介護計画手順書によれば,通院介助における留意事項とし
  て,靴を履くためにいったん玄関の上がりかまちに座らせること,段差で転倒しない
  ように注意し,声かけをしっかり行うことなどが記載されていたようです。Aさんの
  担当介護士は,人工透析のためにAさんを医院に連れて行く際には,Aさんを玄関の
  上がりかまちの上に立たせて,右手を下駄箱の上に添え,左手で杖をついた状態で靴
  を履かせていました。担当介護士Bさんは,同年10月22日,玄関の上がりかまちの上
  に立っているAさんに靴を履かせた後,Aさんを乗せる車椅子が所定の位置とは異な
  る場所にあったため,Aさんに対しそのままの状態で待つように指示をしてその場を
  離れて外に出たところ,Aさんは転倒して玄関土間に転落してしまいました。このと
  きのAさんは,意識状態に問題はなく,Bさんからの指示を理解できない状態ではな
  かったとされています。しかし,AさんはBさんに言わずに動いてしまうこともあっ
  たようです。Aさんは,この事故によって左大腿骨頸部内側骨折の傷害を負い,同日
  から数か所の病院を転々として入院していましたが,平成24年7月8日に死亡して
  しまいました。このような事故の場合,Aさんの転倒事故について,Cは法的責任
  を負うのでしょうか。
第2節 転落事故
Q34 デイサービス中の静養室での転落事故
  Aさんは,Cが運営するデイサービスの利用契約を締結し,レク活動や体操をしてい
  ました。Aさんは,かなりの難聴で,話しかけても日常会話が理解できず,視力も落
  ちていました。また,Aさんは,脚の力も落ちており,自分の力で立ち上がることは
  できませんでしたが,布団で寝ている状態から体を起こし,座る状態になることがで
  き,バランスを崩して転倒することもありましたが,そこから,テーブル等に手をつ
  いて立ち上がることはできたようです。
  平成12年11月9日の昼食後,Aさんは静養室で寝ており,職員のBさんは,ソファー
  のところに戻ってカーテンを半分くらい閉め,静養室に背を向けるような形でソ
  ファーに座り,他の利用者の側に行ったりしていました。またもう一人の職員は,離
  れた机の前に座り,記録を作成していました。担当職員は,何回か静養室の方を向い
  て,Aさんの様子を見ていましたが,午後1時40分ころ,「ドスン」と音がし,Aさ
  んが静養室入口付近の約40僂△訝丙垢砲笋簀悗鮓け,膝を少し曲げた状態で尻をつ
  いて座り,「痛い,痛い」と言っていました。この事故によって,Aさんは,右大腿
  骨顆上骨折の傷害を負ったようです。このような事故の場合,Aさんの転落事故につ
  いて,Cは法的責任を負うのでしょうか。
Q35 デイサービス中のストレッチャーからの転落事故
  Aさんは,平成19年に正常圧水頭症,総胆管狭窄及び腹部大動脈瘤の診断を受けて長
  期入院し,寝たきりで座位保持も介助がないと難しい状態となり,排泄は全介助で尿
  意や便意の訴えもなくオムツでの失禁状態であり,発語はなく,時々うなる程度で,
  意思疎通が困難な状態でした。Aさんは,Dが運営するデイサービスを利用していま
  したが,平成25年11月4日午後2時ころ,職員BさんがAさんを支え,職員Cさんがス
  トレッチャーを浴室中央に移動させたうえ,仰臥位の状態のAさんの身体を職員Cさ
  んが洗い,職員Bさんが洗髪しました。その後,職員BさんがAさんの背部にお湯を
  かけるために右側上肢用のサイドフェンスを解除し,職員Bさんがシャンプーを手に
  取ろうと屈むと同時に,職員Cさんがストレッチャー操作部分にかけてあったタオル
  を取るために移動しましたが,転落防止のための両側の上肢用サイドフェンス及び両
  側のスイング式フットガードは立ててある状態であったものの,安全ベルトは上肢下
  肢ともに装着されていない状態であったために,Aさんがストレッチャーから転落し
  ました。Aさんは,救急車で病院に搬送されましたが,同日午後5時54分に急性硬膜
  下血腫のため死亡してしまいました。このような事故の場合,Aさんの転落事故につ
  いて,Dは法的責任を負うのでしょうか。
Q36 ショートステイ中の窓からの転落事故
  Aさんは,認知症専門棟を有するB施設においてショートステイの申込みをしまし
  た。この時の入所申込書には,「今までに数回,夜間,外に出てしまう事もあり5月
  には警察・市役所にもお世話にな」ったとの記載,診療情報提供書には,「認知症が
  ひどく入院継続困難」との記載,介護計画書には認知症で帰宅願望がある旨の記載が
  あったようです。平成24年8月3日午前10時ころ,Aさんは,B施設の認知症専門棟に
  入所しましたが,その後もたびたび帰宅を求め,不穏になったことがあったようで
  す。8月7日午後5時50分ころにも,帰宅願望を述べて居室から出ることを繰り返しま
  したが,特別に不穏な様子もなかったため,職員はしばらく様子を見ることにしまし
  た。しかし,午後8時15分ころ,Aさんの所在がわからなくなったことから,職員が
  Aさんを探しましたが,午後8時35分ころ,食堂下の植込みに倒れているAさんが発
  見されました。Aさんは,食堂の窓を約210亞けて,雨どい伝いに地面に降りよう
  として落下したようです。Aさんは,救急車で病院に搬送され,翌8日午前2時7分,
  骨盤骨折を原因とする出血性ショックにより死亡しました。Aさんは,帰宅願望が強
  く対応が困難な状態で,他の施設では受入れを拒否していたようですが,このような
  事故の場合でも,Aさんの転落事故について,Bは法的責任を負うのでしょうか。
第3節 利用者間トラブル
Q37 ショートステイ中の利用者間の暴行事件
  Aさんは,平成12年からBの経営するショートステイをたびたび利用しており,車い
  すを使用していましたが,第三者の介助を得れば自力歩行が可能とされていました。
  他方,Cさんも平成14年ころから被告のショートステイを利用していました。Cさん
  は,他人の物を自分の物であると勘違いすることがあり,暴力行為もたびたびあった
  ようです。平成14年11月17日,Cさんは家族のお迎えを待つ間に13号室を使用し,A
  さんはデイルームで過ごしていましたが,Cさんはデイルームに入っていき,自らの
  物と勘違いしてAさんの車いすのハンドルをつかんだため,職員はCさんを13号室に
  戻らせました。しかし,Cさんは,その後もデイルームに来て,Aさんの車いすのハ
  ンドルを揺さぶったり,Aさんの背中を押したりしたので,職員はCさんを13号室に
  戻しました。ところが,デイルームからドスンという物音が聞こえ,職員がすぐにデ
  イルームに向かったところ,Aさんが車いすの横に車いすの方向とは反対方向を向い
  てうつぶせに倒れており,Cさんが車いすの背後にハンドルをつかんで立っているの
  を発見しました。この事件によって,Aさんは,左大腿骨頸部骨折と診断されました
  が,これはCさんが暴力をふるって車いすを取り上げようとしたことに基づいている
  と思われます。このようなCさんによる事件の場合でも,Aさんの怪我について,B
  は法的責任を負うのでしょうか。
第4節 行方不明事故
Q38 デイサービス中の行方不明事故
  Aさんは,アルツハイマー型認知症の診断を受けており,平成25年12月13日,Bが経
  営するデイサービスセンターの利用契約を締結しました。Aさんが平成26年1月23日
  午前9時ころ,職員の送迎によって本件施設に通所しましたが,Aさんは「帰りた
  い。主人が迎えに来ている」と告げるなど,帰宅願望が認められたようです。午後12
  時39分ころ,Aさんは,本件施設の非常口の扉を開けてデイサービスエリアを抜け出
  し,建物の敷地外に出てしまったようです。Aさんが施設内にいないことに気づいた
  職員は,建物内部や周辺を捜索し,併せて,警察及び役場などにその旨を連絡し,捜
  索を実施しましたが,Aさんを発見することはできませんでした。平成26年1月26日
  午後2時5分ころ,本件施設から直線距離で約1.5厠イ譴織ャベツ畑のあぜ道上で仰
  臥位の姿勢で,両手を腹部上に乗せた状態のAさんの遺体が発見されました。翌日行
  われた司法解剖の結果,Aさんの死因は低体温症(凍死),死亡推定日時につき同月
  23日夜ころと判断されました。このような場合,Aさんの死亡について,Bは法的責
  任を負うのでしょうか。

第4章 障害者施設等での事故
第1節 転倒事故
Q39 処遇困難事例における転倒事故
  Aさんの父親は,平成16年3月30日,Aさんのために,Bとの間で,Bが運営する知
  的障害者更生施設の入所契約を締結しました(その後,平成19年に成年後見開始審判
  によって父親が後見人に選任されています)。Aさんは,要求が通らないときなどに
  ストレス発散の形で自傷他害行動を行うようです。Aさんには,歩行時のふらつきや
  前のめり歩行が見られるようになり,転倒の危険性が高くなったため,散歩等の際に
  はヘッドギアを装着させた介助体制をとっていましたが,Aさんがヘッドギアの装着
  を嫌がり,自ら外してしまうことも多かったようです。Aさんは,平成17年10月2日
  午前3時45分ころに起床し,寮内を歩き回るなどの多動性の活動を始め,トイレに
  行って少量の排尿をすることを繰り返しました。被告の職員は,基本的にAさんにつ
  いてトイレに行くなどの介助をしていましたが,午前4時50分ころ,Aさんがトイレ
  の洋便器の前にかがんで手を汚水に入れていたため,職員がこれを制しようとして,
  後ろから両手で抱きかかえて立たせたところ,Aさんが逃げようとしました。職員
  は,Aさんがつかまれ続けたりするのを嫌う傾向にあったこともあって見守っていま
  したが,Aさんは洗面台付近で右折しようとしたものの,足がついていかず,右前額
  部を洗面台にぶつけて転倒し,右前額部を打撲して裂傷を負ったほか頸部脊髄損傷を
  負ったとされています。Aさんは,長く精神病院に入院しており,自傷他害行為もあ
  るうえ,ヘッドギアを装着していないと危険なようですから,知的障害者更生施設で
  生活するには非常に困難が多いと思われます。このような場合であっても,Aさんの
  転倒事故について,Bは法的責任を負うのでしょうか。
第2節 誤嚥事故
Q40 ショートステイでの誤嚥事故の疑い
  Aさんは,重度の知的障害と1級の身体障害を有しており,平成18年1月30日,Bが運
  営しているショートステイの利用契約を締結して入所しました。同年2月18日午前8時
  20分ころ,Aさんは,朝食終了間際にむせ込んだので,看護師によってにんじんのよ
  うなものが少量吸引されましたが,間もなく落ち着いたようです。午後0時30分から
  午後1時にかけては,職員の食事介助により,Aさんは,オムライスやサラダなど全
  量摂取しましたが,むせ込みはありませんでした。しかし,午後1時40分ころ,デイ
  ルームのテレビの前でAさんが意識不明の状態で発見され,午後2時18分,医療セン
  ターに救急搬送されましたが,その時点で口腔内には食物残滓が認められ,また,気
  管への挿管の結果,相当量の食物残滓様のものが吸引されたほか,胃への挿管の結
  果,食物残滓が吸引されたようです。そして午後5時41分,Aさんの死亡が確認され
  ました。Aさんの死亡原因が不明であったことから,監察医による死体検案が行われ
  ましたが,Aさんの死因について,直接死因を食物誤嚥による窒息,間接死因として
  「てんかん発作による意識障害」,間接死因の原因となる間接死因として「脳性麻
  痺」とする死体検案書が作成されましたが,死因を解明するための解剖は実施されま
  せんでした。このような事故の場合,Aさんの死亡に関して,施設側に法的責任は認
  められるのでしょうか。
第3節 入浴事故
Q41 夜間の浴室への入り込みによる溺死事故
  Aさんは,東京都の愛の手帳4度の判定を受けている軽度の知的障害者で,自力で衣
  服の着脱や歩行,ドアや窓の開閉等は可能とされていました。Aさんは,Bの社会福
  祉法人が経営する知的障害者更生施設の女子棟に,平成4年7月から入所していまし
  た。ところが,Aさんが施設入所後10年ほどが経過した平成14年5月7日午後9時ころ
  にはAさんは自室のベッドで就寝したはずであるにもかかわらず,午後10時ころ,A
  さんが施設の浴室の浴槽内で裸のまま右横臥で顔面を湯の中に水没させている状態で
  発見されました。Aさんは,病院に搬送されましたが,午後11時7分に死亡が確認さ
  れました。このような事故の場合,この施設を経営しているBは,Aさんが浴室に勝
  手に入り込んで溺死したことに基づく責任を負うのでしょうか。
第4節 行方不明事故
Q42 一時帰宅の取りやめに基づく焼死事故
  Aさんは,自閉症的傾向があり,重度の知的障害があるとして,Bが経営する知的障
  害者更生施設に入所していました。Aさんには,平成3年ころから情緒不安定な傾向
  が見られるようになったようです。平成4年3月13日,Aさんは,翌日に予定されてい
  た一時帰宅が事情により取りやめになってしまったことから,午前中は精神的に不安
  定な様子を見せていたものの,夕食時以降は落ち着いたようです。しかし,14日午前
  6時45分の起床時にはAさんがいなくなっていました。指導員は,Aさんが施設外に
  無断外出したものと判断し,宿直及び早番の指導員らが手分けをして施設内を捜索し
  ましたが発見に至らなかったため,その後は施設内外での捜索体制に切り替え,警察
  にも保護依頼の連絡をし,警察の協力も得て施設内外の捜索を続けましたが,Aさん
  を発見することはできませんでした。翌日以降も捜索は継続されましたが,Aさんを
  発見するには至りませんでした。ところが,26日に施設1階ボイラー室の煙突内部で
  Aさんの遺体が発見されました。なお,この煙突は適切に施錠されており,開口部へ
  のハシゴにはベニヤ板で覆いが取り付けられていたため,容易に入り込める状況には
  なかったようです。非常に痛ましい事故だと思いますが,この施設を経営しているB
  は,Aさんがボイラー室の煙突内に入り込んで焼死したことに基づく責任を負うので
  しょうか。
Q43 作業訓練中の行方不明事故
  重度の知的障害のあるAさんは,当時19歳で,Bが運営する知的障害者更生施設に通
  所していました。Aさんは,平成13年8月3日,いつもどおり父親に自動車で送られ
  て,午前8時30分ころ,本件施設に登園しました。その後,朝の集いでの入所者の出
  欠確認,ラジオ体操等が行われた後,職員が作業所に引率し,午前10時前ころに作業
  所に到着しました。職員は,作業所において,3名の入所者らとともに鶏の卵集め,
  鶏と合鴨への給水及び給餌等の作業を行いました。遅くとも午前11時30分〜40分ころ
  にはAさんが作業所からいなくなりましたが,職員はそれに気づかず,指導員が気づ
  いて自らも捜索するとともにAさんの捜索をB施設に依頼しました。職員は,午後3
  時前ころには警察にもAさんの捜索を依頼し,消防にも捜索を依頼して,当日その後
  にボランティアも含めて100名以上でAさんの捜索に当たりましたが,Aさんの発見
  には至りませんでした。その後も同月9日までAさんの捜索は続けられ,断続的に平
  成16年まで捜索が行われていますが,有力な目撃情報もないまま推移し,現在もAさ
  んの生死すら不明の状態が続いています。このような場合,Aさんの行方不明事故に
  ついて,Bはどのような法的責任を負うのでしょうか。
Q44 無断外出による行方不明事故
  重度の知的障害のあるAさんは,小児自閉症と診断され,12歳時の検査では,知能指
  数が推定21と判定されていました。Aさんは,駅や乗り物への興味関心が高く,一人
  で駅構内を歩き回ったり,周囲の人に告げずにバス,電車及びタクシーに衝動的に
  乗ったりしてしまう傾向があると認識されていたようです。Aさんは,特別支援学校
  の3年生に在学しており,平成19年11月29日,同学校のカリキュラムにより,Bが運
  営する知的障害者入所更生施設において,住居から職場へ通勤する体験を重ねて社会
  的自立を促すために設置された授産的作業を実習中でした。Aさんが昼食を終えて作
  業所に向かって移動しているときに,Bの職員が他の利用者に対応している間にAさ
  んがいなくなってしまいました。午後0時40分ころにAさんが行方不明であると連絡
  したため,BではAさんを捜索しましたが,Aさんは午後1時28分ころ,作業所から
  国道バイパスを越えて直線距離で約2劼曚錨貽酳向にある線路軌道内で電車にはね
  られて死亡しました。このような場合,Aさんの行方不明事故について,Bは法的責
  任を負うのでしょうか。

第5章 障害者在宅サービス中の事故
Q45 ホームヘルプ中の誤嚥事故
  Aさんは,中枢神経障害による体幹機能障害により,常時,介助を必要としていまし
  た。Aさんは,平成16年10月22日にB有限会社との間でホームヘルプ契約を締結し,
  食事介助と入浴介助のため,週2回〜4回,ヘルパー2人がAさん宅を訪問して入浴介
  助と食事介助を行うこととしました。
  平成17年10月24日午後7時ころ,Bのヘルパーらは,Aさんの家族が用意した食事を
  食べさせるように依頼されていたため,午後7時8分ころから,床にあぐらをかいてA
  さんを膝の上に載せ,左脇でAさんの右手を,右手で両足を抱えた姿勢で,Aさんに
  食事介助を行いました。しかし,午後7時25分ころ,Aさんが上半身を前後に大きく
  揺らし,その顔色が悪くなったことから,Bのヘルパーは,Aさんの背中をタッピン
  グしAさんの家族に向かって「Aくんがおかしいんです。変なんです」と言ったとこ
  ろ,Aさんの祖母は,「発作だわ」と言って座薬を入れる準備をし,てんかんの発作
  に使用する座薬を投与しました。ところが,座薬を投与してもAさんに変化がなかっ
  たことから,Aさんの母親は発作ではないと判断し,119番通報しました。Aさんの
  母親は,119番通報後,吸引機でAさんの口の中からかんぴょうを取り除きました。
  職員は,誤嚥を起こしている可能性があると判断し,吸引と人工呼吸,心臓マッサー
  ジをするように指示をし,救急隊が到着するまでは,人工呼吸及び心臓マッサージを
  Aさんの母親と交代しながら継続しましたが,Aさんは救急車で病院に搬送された
  後,翌25日午後8時20分に誤嚥による窒息により死亡しました。このような場合にB
  の責任は認められるのでしょうか。

第6章 介護事故判決例の傾向と対策
Q46 転倒事故事例の傾向と対策
  転倒事故については,足腰が弱って単独歩行が困難になっている高齢者や障害者であ
  れば,転倒事故の具体的な危険性が直ちに認められるように思います。しかし,歩行
  機能に問題がない高齢者や障害者であれば,転倒事故の具体的な危険性は直ちには認
  められないと思います。どのような場合に転倒事故の具体的な危険性が認められ,回
  避義務違反の責任が問われることになるのでしょうか。
Q47 誤嚥事故事例の傾向と対策
  誤嚥事故については,嚥下能力が低下して常食が困難になっている高齢者や障害者で
  あれば,誤嚥事故の具体的な危険性が直ちに認められるように思います。しかし,嚥
  下機能に問題がない高齢者や障害者であれば,誤嚥事故の具体的な危険性は直ちには
  認められないのではないかと思います。しかしながら,裁判では,必ずしも具体的な
  危険性が認められない場合であっても,予見義務違反が認められたといわれているよ
  うですが,なぜそのような違いが生じるのでしょうか。
Q48 処遇困難事例の傾向と対策
  福祉サービスの利用者の中には,適切な支援を行おうとしてもそれをまったく受け付
  けなかったり,適切な事故回避措置をとろうとしても本人がそれに敵対する行動を
  とったりする事例があると思います。そのような場合には,介護事故を予防する取組
  みを行おうとしても,それ自体を本人が拒否しているため,介護事故を予防すること
  ができなくなってしまいます。そのような場合であっても,実際に事故が起きてしま
  うと,事業者は責任を負わなければならないのでしょうか。
第7章 その他の関連責任
Q49 JR東海事件と家族の責任
  Aさんは,86歳で妻と暮らしていましたが,認知症を発症し,判断能力が失われてい
  ました。Aさんは,毎日通ってくる長男の妻の世話を受けて生活していましたが,平
  成15年ころには人物の見当識障がいも見られるようになり,外出して徘徊することも
  多くなり,外出して帰れなくなって保護されることもたびたびになっていました。家
  族が気づかないうちにAさんが外出した場合に備えて,警察にあらかじめ連絡先等を
  伝えておくとともに,Aさんの氏名や家族の携帯電話の電話番号等を記載した布をA
  さんの上着等に縫い付けたりしていました。また,自宅玄関付近にセンサー付きチャ
  イムを設置し,Aさんがその付近を通るとチャイムが鳴ることで家族が対応すること
  にしていました。家族としては,Aさんが外出できないように門扉に施錠したことも
  ありましたが,Aさんがかえっていらだって危険になることから施錠は中止しまし
  た。ただ,センサーはあまりに頻繁に反応することから電源を切っていました。Aさ
  んは,既に要介護4の判定を受けており,平成19年12月7日午後4時30分ころ,デイ
  サービスから帰ってきた後,事務所のいすに腰掛けて家族と一緒に過ごしていました
  が,家族が自宅玄関先でAさんが排尿した段ボール箱を片付けていたところ,一人で
  外出してしまい,駅に行って列車に乗り,別の駅で降りて排尿のためホーム先端の
  フェンス扉を開けてホーム下に下りたところ,午後5時47分ころ,走行してきた列車
  と衝突して死亡してしまいました。この事故によって,鉄道会社は,列車に遅れが生
  ずるなどして損害を被ったと主張し,Aさんの家族を訴えました。このような場合に
  Aさんの家族は,列車の遅れ等の責任を負うのでしょうか。
Q50 職員への安全配慮義務
  特別養護老人ホームに勤務していますが,ショートステイを利用している人で,認知
  症で深夜徘徊が多い男性がいます。先日,深夜に離床センサーが反応したので,すぐ
  にその人のところに行ってみると,その人が突然殴りかかってきました。私は,すぐ
  に他の職員の応援を求めましたが,他の職員が来るのが遅れたため,私はその人に殴
  られて倒れてしまい,全治1週間ほどの怪我をしてしまいました。このような怪我は
  労働災害に該当すると思うのですが,労災保険の給付を求めることはできないので
  しょうか。

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